鬱病日記 2006年1月11日

首屋

今日も暇。鬱病患者は鬱でないときはたいてい暇なのだ。
気分もいいので近所の首屋に久々に行くことにした。ウチの近所には首屋が二軒ある。片方は雑貨屋さんの一角で首を売っているこじゃれたセンスの割に客の入っていない店、もう一軒は首専門でいまいちぱっとしない、やっぱり流行ってない店。私のお気に入りは後者のほうである。
家から歩いて15分ほど。天気もいいし散歩ついでにね。

店に着くと、やっぱりお客さんは居ない。まあ平日の昼間に首屋をのぞきに来る人もあまり居ないでしょう。
この店はヘアスタイルごとに首を陳列している。レジ近くには髪を赤く染めたあまりやる気のなさそうなバイトのお姉ちゃんが一つの首の髪の手入れなどしながら、横目でこっちをちらりと見ていらっしゃいとも言わずにすぐに目を伏せてしまった。
まあそんなことはどうでもよいのだ。冬だからなのかやっぱりロングヘアの首が多い。
首たちは平日の昼間の客に暇つぶしの種を見て取ったのか、こそこそとおしゃべりをはじめた。
ほっそりとやせた色の白い首がこっちを見て笑う。となりのやや肌色の濃い首とそのとなりの魅力的な唇をした首が私のほうを逆に値踏みするような目で見ていた。
この魅力的な唇の首は以前来たときからちょっと気になっていたのだが、唇がぷっくりと健康的である。ただちょっとそばかすが目立つ。
ロングヘアーの列を横目で見ながら、ショートヘアコーナーに足を進めた。と、ある一つの首と目があった。
ちょっと痩せすぎで、こけた頬に彫りの深い目元、大きな黒い目。先月号のGINZAに載っていたキーラ・ナイトレイの写真をなんとなく思い出させる顔だ。ショートを買うつもりはないんだけどな、でもキーラ可愛いよな、とか思いつつ近づくと、店の奥から店主が出てきた。
ふつう首屋の店主というのは綺麗な女性が多いんだけど、この店はオッサンである。たぶんこれも私がこの店を気に入っている理由の一つだと思う。綺麗な店員さんがいると、自分の買おうとしている首と比べてしまったり、その人に「うわ、コイツ身の程もわきまえずこんな可愛い首買う気だわ」と思われてるんじゃないかとか、考えてしまうのだ。
その点この店のオッサンは何にも考えてなさそうで、ぱっと見フツーのサラリーマンでもやってそうなちょっと薄くなった髪の毛とちょっとでっぱった腹と、要するにどこにでも居るオッサンなのである。
「いらっしゃいませー」
そしてこの売る気のなさそうな挨拶。一気にテンションが下がる。もともとそんなに高くないけど。この店はバイトといい店主といい陳列されている首たちといい、やる気がなさげでいいのだ。
ショートの首たちを(といってもそんなに数はない、確か五個ぐらいだったと思う)見回すと、やっぱキーラ・ナイトレイ似の首が気になる。それとなく値札をのぞくと、ちょうど手持ちと同じぐらい、結構お値打ちじゃないですか。
今の首も気に入ってるんだけどな、と思いつつ、試着してみることに。店主のオッサンに首を付け替えてもらうと、それほど違和感もなくてこの程度なら二、三日で慣れるかなという感じ。痛みもないし、まばたきもスムーズ。
ちょっと身体の太り具合に首の痩せ具合があってないような気もするけど、ダイエットの励みにもなるかな〜とか思い始めちゃうともう買うしかないよね。
ま、以前痩せた首を買った時も結局ダイエットにならずに首のほうが身体にあわせて太ったんだけど、そんなことはおいといて。
気に入ったら即お買い上げである。最近鬱のおかげで物欲が全然わかなかったので久々のお買い物だ。
「こちらの以前お使いになっていた首、どうなさいます?」
と、オッサン。友達とかは使わなくなった首はその場で下取りに出しちゃうらしいけど、私は結構お持ち帰りすることが多い。なんとなく、また使いたくなるかも、とか思っちゃうのだ。実際使うことなんてまずないのにね。
でもやっぱり今回も持ってかえることにした。
「四月から古い首を捨てる時に処分料が3000円かかることになったんですよ、ご存知でした?」
知らなかった。なんかオッサンの話ではこれからは首は燃えるごみには出せないことになったらしくて、クリーンセンターに直接持ち込み、料金が3000円、ということらしい。ニュースとかで結構問題にもなったらしいけど、鬱になってからテレビなんて全然見てないし、知らなかったわ。
うわ〜、わたし古い首いくつ持ってたっけ。
「ウチでは引き取りもやってるんで、いらないのあったら持ってきてくださいね。質がいい奴なら買い取りもしますし」
ありがとう、といってお金を払って店を出た。
古い首を袋に入れてもらったんだけど、結構重い。車で来ればよかった。とおもったけど、そもそもメインは散歩でついでのお買い物なんだった。
重かったので寄ろうと思ってた古本屋はキャンセルして直帰。

部屋の棚の歴代の首たちの隣に今日はずした首を置く。首たちは口々に「たまには髪をとかして頂戴」だの「クッキーが食べたい」だの「タバコが吸いたい」だの。いつもいつものことながらうるさいなァ。
数えてみると今回ので六個目だった。3000×6で18000円だよ。今度まとめてあそこの首屋に持っていこう。手入れもロクにしてないから買ってはくれないだろうけど、引き取ってくれるだけでもありがたいわ。

鏡を出して新しい首を眺めてみる。なかなかいいじゃないですか。ショートって初めてだし、たまにはこういうのも新鮮でいいな。
家族の評判もなかなか。
「ちょっと痩せないとね」
う〜ん、やっぱり言われてしまった。
彼氏に写メールしよっかなと思ったけど、今度会うときのお楽しみっつーことで、首を買ったことだけメールで報告。
キーラ・ナイトレイだよ!と送ったら、誰それ?というつれない返事。いいんだ。あゆぽんにも「キーラはちょっとがんばりすぎじゃない?」っていわれたけどいいんだ。

ということで今日はいいお買い物が出来て満足な一日でした。